最近の司法事件に関して
大正4年10月25日
最近、司法上の重大事件が頻出していることは、社会の腐敗が積もり積もって暴露されたものであり、極めて憂うべきである。
先には大浦涜職事件があり、政界の醜態を暴露した。いわゆる代議士というものが、金銭によって節操を変えることが暴露された。
一昨日は、岩下事件の予審決定書が公表され、財界の内情が露呈している。銀行の重役が、銀行が管理する金銭を利用して、種々の投機事業、泡沫会社への投資、新聞社を買収、外国から競走馬を輸入する、顕官に金銭を融通する、等々、利益を得るためにあらゆることを行っている。また、法の網に触れても反省の色は見られない。
ヨーロッパでは、事業の失敗によって株主に損失を与えた場合は、自ら引責して自己の不明を謝罪している。これがヨーロッパの信用の基礎が強固であり、経済界がますます発展する理由である。
だが岩下事件の重役達は、他人の財産を最も確実安全に保管すべき地位にありながら、これを横領し、道義責任とは何物かを知らないようである。この失敗により、株主や預金者には財産を失い、自殺した者も居る。これは彼らが殺したと言っても過言ではない。
最近の司法事件によって見ると、我が国の政界財界は、腐敗の頂点にあるかもしれない。このときに当たり、憂国の志士が奮起し、矯正の道を探ることは、滅びゆく国家を救うことになるだろう。もしそのようなこともなく、漫然と日を過ごし、亡国に至ったとしても、悔いても遅いのである。
また、石川県の選挙無効事件にも言及せざるを得ない。この判決が正当であれば、当時選挙を管掌していた石川県知事の罪状には驚くべきものがある。
この判決によると、地方長官の威勢をかりて、政府与党をあげて反対党を撲滅しようとし、違法の投票用紙を使用したということである。これを黙認した内務大臣にも責任があり、その内務大臣の行為を許容した内閣にも責任があると言わざるを得ない。
反対にこの判決が不当であれば、法の威信は地に落ち、国家社会の秩序を維持することも出来ない。我が国の裁判ほと人民の信用が少ないものはなく、裁判をおみくじに例えるものもある。裁判がもしこのようであれば、どうして生命財産の保護が出来るだろうか。
この選挙無効判決には重大な意義があり、筆者はその行方を括目して見守っている。
(当日の社説を要約したものです)
関連記事:
大浦事件: 9月30日、10月1日、10月2日
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選挙無効事件: 10月23日


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