ドイツ人捕虜脱走の続報、広尾で猿被害ほか
大正4年11月24日

大正4年(1915年)11月23日の出来事
【政治】英仏露の中国勧誘に対する反応
【社会】逃亡ドイツ人捕虜を護送
【社会】佐藤志津さんの叙勲祝い
【中国】孫文氏の動向
【社会】スタール博士の帰京
【社会】今年の除隊
【社会】広尾で猿被害 - 故井上馨の愛猿
【第一次世界大戦】ギリシャ情勢、アメリカの独探裁判
国内
英仏露の中国への交渉に対する反応
既報のように、イギリス・フランス・ロシアが、中国に対して連合国への加盟を打診しています。
これに対し、日本では中国との関係上、日本に事前に相談があるべきだ、という強硬論が起こっています。
意外にも中国には親ドイツ派が多く、英仏露の交渉は拒絶される可能性が高い、と、某消息通は語っています。
逃亡捕虜を福岡に護送
京城で逮捕された、逃亡ドイツ人捕虜フリードリッヒ・モッデ(43)が、憲兵に護送され下関に送還されました。
京城で取り押さえられた際には、「自分はドイツ人ではない。アメリカ人ミラーである。」として、頑として認めていませんでしたが、22日の朝にようやく白状。
20日の夜、福岡捕虜収容所を脱走し、20日の一番列車で福岡駅から門司駅へ向かい、そこかた下関に渡って、プサン行きの舟に乗ったとのこと。
下関では、憲兵・巡査が20名以上いましたが、上手く突破することが出来たということです。
逃亡は自分一人の考えで、共謀者はいない、と話しています。
特に乱暴をせず、しごく従順ですが、目的を達することが出来なかったことを残念がっています。
ワルデック総督の尋問
福岡捕虜収容所の所長立ち合いのもと、第三十五旅団長によるワルデック総督への尋問が行われました。
総督は申し訳ないと陳謝。収容所の通訳フリードリッヒ・ハックが何か知っているかもしれないとのことで、ハックへの取り調べが始まっています。
佐藤志津さんの叙勲祝い

女子美大HPより
今回叙勲された、女子美術学校長佐藤志津さんの家庭では、毎年11月25日に行なっている夫佐藤進氏の誕生日祝いを、夫人の叙勲祝いも兼ねて盛大に行う予定です。
上野精養軒で、200名以上が招待されています。
佐藤氏の親族には、夫の進氏(順天堂医院院長)、達次郎氏、恒三氏、三宅秀氏、三宅鉱三氏、三浦謹三郎氏、今泉嘉一郎氏など、高名な方がたくさんいて、何がしかのお祝いが無い年は無いぐらいです。
志津夫人は、家のことをいっさい行うだけでなく、美術学校にも週2~3回は行って、熱心に講話をされています。
趣味は能と鼓ということです。
孫文の近況

孫文
日本に亡命中の孫文氏は、東京の街はずれに、夫人とボーイ、女中を、質素に4人暮らしをされています。
世を忍ぶ身でもあり、表札も出していません。
ただ最近は中国の帝政運動への反発により、革命の同志からいくつもの暗号電報が届いているようです。
アメリカに亡命中の、もう一人の革命勇士黄興の苦心が身を結んだのか、アメリカからの送金もあり、資金調達も順調な様子です。
孫文氏の読書量は相当なもので、丸善が定期的に孫文氏を訪れています。
記者が取材に行くと、部屋の壁にべったりと地図を貼っていて、普仏戦争のもの、欧州大戦の戦局図などがあり、中国の地図には書き込みの跡が見られます。
取材に対し、
「機は来たれり、同志は日本を出発し、着々と計画を実行しつつある」
と確信ある口調で語っています。
フレデリック・スタール博士の帰京

スタール博士
東海道五十三次を巡礼姿で歩き、札所ごとに「米国須多有」の札を打った、シカゴ大学教授スタール博士が東京に戻ってきました。
旅館を訪れると、博士は着物に帯、足袋をはいて、日本流に座っていました。一見、近江商人のようです。
関連記事: 10月26日
スタール博士は語る
品川を振り出し、旧道を志し、新道へは足も踏み入れなかった。
箱根越えには、人跡の絶えた山道を、草の根を踏んで歩いた。大井川も舟で渡った。それだけ汽車旅行では見られない、寒村へき地の面白い味わいが尽きなかった。
旅行中は、広重の五十三次の絵本を携えて、一々それと対照して味わいつつ歩いた。
富士川の雪景色を、季節的に眺めることが出来なかったのが残念、雪が降るころ、また富士川に行く予定である。
旅中は、純粋な日本食、それも古い由緒あるものしか食べなかった。ある茶屋でとろろ汁を食べたが、広重もここで舌鼓を打ったと聞いて嬉しかった。
沿道のどんな小村でも大礼奉祝の装飾をしていたが、日本の装飾はただ綺麗というのみで物足りなかった。
私のことが良く知られていたみたいで、伊賀の山奥でも、子供までがスターさんとはやし立ててついてきた。
どんな辻堂でも、私は両手を合わせてお札を打ったが、このお札には特に深い意味がある訳ではない。ただなんとなく、これがたまらなく好きなのである。
除隊の状況
例年、11月26日が除隊の日ですが、今年は特別大観兵式が行われるため、12月6日が除隊の日になっています。
除隊の際は、在郷軍人会が出迎えることが多くなり、兵営の門を出ると、すぐに在郷軍人会に入会させられることが多くなっているようです。
兵営付近の雑貨店では、土産物の盃や手ぬぐいを並べていますが、今年は注文が少ないようです。旧習がすたれているのでしょうか。
なお、新兵の入営は例年12月1日ですが、大観兵式のため12月1日と11日の両日になっています。
広尾で猿の被害 - 故井上候の愛猿

ニホンザル
最近、麻布の広尾付近で猿による被害が発生しています。
庭の柿を食べ、捕らえようとしても、巧みに逃げてしまいます。
どこの猿かと調べてみると、これは故井上馨侯爵が飼っていた猿でした。
三年前、誰かが猿を井上候のお供にしたところ、老候は大変気に入って、裏庭に小屋をこしらえて、大切に飼っていました。
孫の井上三郎氏もまた猿が好きで、井上候が「世外庵三猿」と洒落で名乗っていたこともあり、二匹買い足して三匹にしていました。
先日の葬儀の日、一番先に飼われていた猿が、いつの間にやらどこかに行ってしまいました。
井上侯爵邸では、邸内をくまなく探しましたが見つからず、「さすが候の愛猿だ、後を慕って逝ったのかもしれない」と憐れんでいました。
ところが最近、その猿が出没して、井上侯邸で捕らえようとしても、なかなか捕まりません。
今度、三郎氏が総指揮官となって、家の子郎党を率いて、猿狩りをやることになっています。
海外
ギリシャに対し、英仏露伊の共同要求
イギリス、フランス、ロシア、イタリアのアテネ駐在大使が共同で、ギリシャ政府に対して、態度を明確にするよう、要求しています。
ギリシャ政府は、ただちに閣議に入りました。
アメリカの独探裁判
アメリカで、ドイツ人スパイに対する裁判が始まり、注目を集めています。
ドイツ公使館付きの海軍武官ボイド氏が指揮し、ドイツに対して75万ドルもの物品を供給しようとした疑いです。
このとき
出来事
・愛知県が、刈谷町立図書館を認可しました。
・岩手軽便鉄道で、岩根橋~柏木平間の9.5kmが開通し、全線が開通しました。(現在の釜石線)
単一路線の軽便鉄道としては、当時最長の路線となっています。
なお、終点の仙人峠駅から、三陸海岸側の駅までは、仙人峠を越す線路を敷くことが出来ず、旅客は徒歩で3時間程度、荷物は索道(リフト)で運ぶことになりました。
・福島市の飯坂温泉で、十綱橋が開通しました。鋼製のアーチ橋で、多くの人が訪れ開通を祝っています。
参考:土木学会推奨土木遺産

十綱橋 2004年


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